ミッキーマウスの黒目と白目

By Ryota Harashima, 2014年2月3日

ミッキーマウスといえば誰もが知ってるディズニーを代表するキャラクターですが、

このミッキーマウス、大きくふたつのデザインがあることはご存じですか。

ひとつは千葉県に生息するこのタイプ。

 

mickey_01

 

もうひとつはこちらです。

 

mickey_02

 

言われてみれば両方みたことがあると思います。

このふたつめのタイプは「クラシックミッキー」、「オールドミッキー」などと呼ばれ、

その名のとおり古い時代のミッキーマウスのデザインです。

 

さて突然ですが、このクラシックミッキーの目はいったいどれだと思いますか?

なにを当たり前のことを思うかもしれませんが、こんなことを聞いたのには理由があります。

 

クラシックミッキーについて調べてみると、ウィキペディアにはこのように書かれていました。

 

1939年、「ミッキーの猟は楽し」以降キャラクターデザインが変更された。

それまでは黒目がちであったが、この変更により白目が付いた。

(日本語版wikipedia「ミッキーマウス」より)

 

弊社きってのディズニーフリークである原島に尋ねてみたところ、やはり同様の認識を持っておりました。

 

つまり

一般的に「クラシックミッキーの目は黒目だけ」 と、

このように考えられているようです。

たしかにクラシックミッキーはハニワのように黒目があるだけのように見えます。

 

ところが本来クラシックミッキーの目には白目がないのではなく、

黒目のまわりにある広大な白い部分こそが白目なのです。

 

mickey_03

 

なぜこのような誤解がひろまってしまっているのでしょうか。

1928年ディズニースタジオは、ミッキーマウスを大きな目のネズミとしてデザインしました。

 

mickey_0401_Mickey_Mouse_concept_art

 

この時には目を囲む線があるのでどこが目なのか一目瞭然ですね。

そしてこのデザインのミッキーを使って、1928 年に「Plane Crazy」と「The Gallopin’ Gaucho」の

二本のアニメーションが制作されましたが、買い手がつかず公開されませんでした。

 

02_Plane Crazy

 

次に制作されたのが有名な「Steamboat Willie」(蒸気船ウィリー)です。

これには買い手がつき、1928 年にニューヨークで公開されました。

ディズニーが公式にミッキーマウスのデビュー作としているのはこの作品です。

 

03_Steamboat Willie

 

この作品ではじめてミッキーは、目を囲む線がない、クラシックミッキーのデザインとして登場します。

この小さな変更の理由はよくわかりません。

目を囲む線こそなくなりましたが、黒目がそのまわりを大きく動き回ることや、怒ったときに現れる

眉毛をイメージしたライン、目をつぶったときに現れるラインなどの、大きく表情を変えることで現

れる線によって、大きな目をもつキャラクターであることがわかります。

 

目つぶりいかり

 

しかしながら、目を囲む線をとってしまったことによってアニメなどで動いている分には

いいのですが、印刷物などの静止画でみたクラシックミッキーは

どこが目なのかがわかりにくいものになってしまいました。

そのためアニメを見たことがない人のなかにはミッキーは「黒目がち」で

「白目がない」というふうに受け取った人がでてきてもおかしくありません。

ひょっとしたらディズニー内部でもそのような認識の広がりを考慮してあえて

ミッキーの目の形を明確化しない方針をとったふしがあります。

というのも、クラシックミッキーに色を付ける際に顔は肌色に塗り、

白目は白いままにすれば、目の下に線を入れることなく目の形を明確にできるのはずなのに、

ディズニーはそれをしなかったのです。

 

mickey_05

 

アニメーションがカラー化される以前にも、カラーの印刷物では

クラシックミッキーの白目と肌は白で、塗り分けることはされませんでした。

カラーのディズニーアニメは1932 年の「Parade of theAward Nominees」が最初ですが、

ここでも印刷物での色設定が踏襲されています。

 

04_Parade of the Award Nominees

 

実はミッキー以外でもおなじように当初あった目を囲む線が後になくなったキャラクターがいます。

「ホーレス・ホースカラ―」や「クララベル・カウ」がそうです。

ホーレス・ホースカラ―は1936 年の「Mickey’ s Grand Opera」で

白目と顔が塗り分けられるようになりますが、

ミッキーマウスは塗り分けられていません。

それどころか一部のシーンでは白目も顔と同じ肌色で塗られているのです。

これでは「黒い部分だけが目です」とディズニー自ら宣言しているようなものです。

 

その後1939 年の「The Pointer」でミッキーマウスの目は劇的に小さくなります。

白目がついたのではなく、全体として小さくなった。

それまで黒目であったところが全体としての目になったのです。

 

05_The Pointer

 

これが現在のミッキーマウスです。

このころはすでにミッキーの目は黒い部分だけという認識が一般化していたのでしょう。

そしてほかならぬディズニーサイドもそれを許容していた。

それを踏まえての大幅なデザイン変更だったのだと思います。

細かく見ていけばいろいろなバリエーションもありますが、

こんなふうにミッキーマウスのデザインは変わってきました。

 

さて、ここではじめの問いに戻りましょう。

クラシックミッキーの目がなぜ誤解されているのか。

実質的なデビュー作の「Steamboat Willie」で目のデザインを変更したことで、

目の形が認識しづらいものとなったにもかかわらずそれを放置してしまったこと。

理由はどうやらこのあたりにあるようですね。

(S)